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札幌地方裁判所 昭和34年(行モ)1号 決定

申立人 佐藤彰朔 外一名

被申立人 札幌通商産業局長

主文

被申立人が申立人に対し後志国奥尻郡奥尻村地内試掘権登録第四五一〇号けい石鉱区につき昭和三十四年四月六日附をもつてなした試掘権存続期間延長申請不許可の処分の執行を停止する。

理由

本件申立理由の要旨は

一、申立人等は後志国奥尻郡奥尻村地内けい石鉱区五十七ヘクタール四十アールにつき登録第四五一〇号試掘権を有し右試掘権は昭和二十六年十月十七日に設定の出願をなし昭和二十九年十月二十日許可同年十一月四日登録されたものである。而して右試掘権は鉱業法第十八条第一項により昭和三十一年十一月三日限り消滅となるので申立人等は同年六月四日同条第二項により試掘権存続期間延長の許可申請をなし同日その旨登録され昭和三十二年十二月五日存続期間が昭和三十三年十一月四日まで延長許可となりその旨登録された。しかるところ右延長された試掘権は右期日限り消滅となるので申立人等は同じく同条第二項により同年七月四日存続期間延長の再申請をなし同日その旨登録された。

しかるに被申立人は昭和三十四年四月六日附札通三三甲第五三八号をもつて右試掘権存続期間延長申請不許可の処分をなしその旨申立人等に通知した。

二、右被申立人のなした不許可処分の理由は「誠実に探鉱した事実が明らかでなくまた、鉱床の状態を確認するための探鉱を継続する必要があると認められない」というのであるが本鉱区は申立人佐藤が四十数年前より現地調査にかゝるもので昭和三十三年七月四日、二回目の存続期間延長許可申請の際その申請書に採掘出願に相当する鉱床(鉱業法第二十二条該当のもの)の存在することを明記しその鉱床の位置、走向、傾斜、厚さその他の状態を詳記説明しかつこれを裏付ける図面を添付しあるもので現実右に相当する有用鉱床の存在することは明かである。即ち本鉱区は既に採掘出願に適する鉱床の現存するものでありたゞこれを現実に掘採、運搬、製煉、売却をするためその稼業価値の具体的数字が現れないだけのものである又右の如く採掘出願に適する有用鉱床が現存する以上この有用鉱床を発見するための探鉱を継続する必要はないが前記の如く申立人等が現実に掘採してその稼行の実績を挙げるためには是非共探鉱継続の必要があるのである。何となれば試掘権に基く探鉱とは鉱区における鉱石の掘採にあるのであつて本件鉱業権は試掘権である故に申立人等は鉱業法第六十九条及び同法施行規則第二十八条により試掘工程表の作成及び備付の義務があるから如何にしても探鉱、即ち採掘しなければならないのである。申立人等は右理由により被申請人のなした不許可処分は違法であることを主張して札幌地方裁判所に右処分取消の訴を提起し右訴は同庁昭和三十四年(行)第四号事件として係属している。

三、申立人佐藤は本件試掘権に基き申立外道南開発産業株式会社を被申請人とし函館地方裁判所に仮処分を申請し本鉱区のけん石掘採禁止の仮処分命令を得てこれが仮処分を執行したところ同会社より異議の申立があり、右事件についても申立人勝訴の判決がなされた。ところが同会社は右判決に控訴をなし札幌高等裁判所函館支部昭和三十三年(ネ)第六九号事件として繋属中昭和三十四年三月十七日弁論終結同年四月二十一日判決言渡のところ、右弁論終結後に突如本件不許可処分がなされたので同会社は同年四月十六日口頭弁論の再開の申請をなし今回の本件不許可処分により本鉱業権は昭和三十三年十一月四日限り消滅しこの旨登録されたから右仮処分は被保全権利がないと申立たので同年四月二十一日右事件の口頭弁論は再開されるに至つた。申立人等は右会社の主張に対し本件不許可処分については札幌地方裁判所にこれが取消の訴訟を提起したから右処分は不確定である故依然被保全権利を有する旨主張しているが、試掘権存続期間延長不許可処分は鉱業法第百七十三条第一項により処分の執行を停止しないので取消訴訟の提起だけでは本鉱業権によるすべての掘採事業は実施できないこととなり仮りに前記会社の主張する如く右仮処分異議控訴事件において仮処分権利者である申立人等の被保全権利が消滅したと認められるときは申立人の申請した仮処分は取消さるべき運命に在り、しからずして右仮処分異議控訴事件の結審前において右不許可処分の執行が停止されるならば右仮処分の被保全権利は消滅の効力を発生せず依然存続するに至るべきことはまことに明かである。又若し右仮処分が取消されるときは前記会社は本鉱区に再び立入り本けい石を多量に掘採し得るに対し申立人等は本件取消訴訟における勝訴判決の確定に至るまで何ら本鉱石を掘採し得ずしかも右訴訟が勝訴となるも本試掘権の存続期限は昭和三十五年十一月四日限りであるから訴訟の経過如何により全く掘採事業が不能になるか又は極めて短時日間のみしか掘採事業ができなくなる。しかのみならず申立人等は本鉱区の試掘以来、岩手県遠野市高橋金兵衛外九名より右事業資金として合計金七百弐拾九万円借受けこれを全部投資したうえ自己資金として金百八拾万円を投資しこれ等の事業借入金は始めは昭和三十年七月より本掘採事業を実施する計画のもとに借入れたものであつてこれ等債権者も近く事業ができるものとして何回も猶予して来たものであるが今回の不許可処分により事業実施が不能となるときはその驚がくと憤激はまことに甚大のものであることは想像に難くなく申立人としては右借財未済による利息或は損害金支払等に莫大な損害を生じ且つ申立人等の今日までの名誉と信用は全く地に落ち経済的にも又精神的にも回復し難い損害を蒙ることは必定である。よつて右不許可処分の執行の停止を命ぜられんことを求める。

というのである。

よつて審査するに、申立人等提出の資料によれば右一乃至三記載の事実はすべて疎明せられる。しかして被申立人のなした存続期限延長申請不許可処分は意思表示のみよつて効力を生じ何ら執行を伴わない性質の行政処分であるけれども鉱業法第二十条によれば同法第十八条第二項に基く存続期間延長の申請があつたときは試掘権の存続期間の満了の後でもその申請が拒否されるまで又は延長の登録があるまではその試掘権は存続するものとみなされるのである。

従つて、右申請不許可処分の効力の発生が停止されると試掘権者は右法条の適用によりその権利を行うことができることとなるから、右処分は行政訴訟事件特例法第十条第二項の適用を受けるものと解すべきところ、前掲疏明せられた事実によれば本件不許可処分の執行により申立人等の蒙る損害は異常なものがありこれ等の事実はまさに同法条にいう処分の執行により生ずべき償うことのできない損害を避けるため緊急の必要ある場合に該当とするものと認められるから申立人等の本件申立を理由あるものとし主文のとおり決定する。

(裁判官 杉山孝 浜田治 岡田潤)

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